検察は司法権には属さないが司法作用の一翼を担う。

 …だから、検察官の職務にはある程度の独立性が要求されるし、行政の指揮命令関係という面からみても相応の配慮が為されている。その意味では、検察官は司法権には属さないものの、司法権独立の論理の影響を一定程度受ける。たとえば、ある事件を訴訟にかける際には当然検察官自身が法的判断をするわけであるが、そのさい事件にどの条文を適用すべきか否かという判断においては、条文を類型的・形式的にあてはめる等、司法判断の特性に応じた(その意味で独立の)判断をすべき使命を帯びる。政治的影響をにじませて判断をその都度変えるようなことはあってはならないこととされている。その意味で、かれらの司法に関する判断は政治その他の影響から独立的(!)である。

 …こんなこといちいち説明しなければいけませんか?

24日のTweetより

たんに司法権独立という点だけ考えても、まるで外圧に配慮したかのような文言で処分保留のまま釈放という論理に落とし込んだのは問題がある。*1 / 船長の釈放について - リアリズムと防衛を学ぶ http://htn.to/7o1NU6
posted at 16:38:56

かえって仙石官房長官の方が形式的には司法権独立に配慮した格好になっている。それより深いところのことは知らないが。何にせよ、日本国の司法権にとって愉快な話ではない。
posted at 16:40:50

検察というのは一応行政府の一部だが、行政府と独立のものとしての司法権に属する存在でもある。だから、内閣との指揮命令関係のことに触れる言葉には注意が必要だ。
posted at 16:51:56

少なくとも、地検を(法務省を通じて)内閣の末端組織に属するという面ばかりに目を向け、地検に高度な外交的・政治的配慮すら求めるのが当然と言うが如く非難するのは、国家機関に関する理解が浅いと言わざるを得ない。*2
posted at 17:02:12

検察は司法手続に関する判断に限っては司法権独立の論理が及ぶ。そこに直接的な政治的配慮を盛り込ませるのは、それじたい問題がある。今般の釈放の件では外交的敗北をなじる言葉ばかり溢れているが、そう言う人たちの司法権理解はやっぱり浅いとしかいえないだろう。
posted at 17:09:01

全くその通り。 RT @fromdusktildawn: 選挙で選ばれた国民の代表が政治判断を下すのが民主主義国家なんじゃなかったっけ?
posted at 17:09:44

普段から起訴裁量とかばかりやってるせいで司法判断の独立性を忘れてしまったんじゃないか?地検は政治判断をする場所じゃない。/ 中国人船長を処分保留で釈放へ 那覇地検日中関係を考慮」 - 47NEWS(よんななニュース) http://htn.to/Pk8U5u
posted at 17:17:24

むしろ超然として司法判断の独立性にこだわり、拘留期限ぎりぎりまで引っ張って返していた方が日本政府的には都合が良かった(!)だろう。
posted at 17:20:22

検察が外圧に触れて容疑者を処分保留のまま釈放というのは、政治的にではなく司法判断として不当。それは司法裁量権の濫用だから。もちろん日本国として政治的にも都合が悪い(!)わけだが、それは結果としてそうだということでしかない。
posted at 17:25:44

だから、中国人船長釈放の件にかんする非難で正しいのは、「これでは外圧があったら罪を犯した者みんな釈放だ、おかしい」といった種類のもの。おかしいのは犯罪容疑者が外部の論理の影響を受けて裁量的に釈放されてしまうということ。
posted at 17:30:47

一方で、中国との外交問題の責任を引き受けるのはもちろん内閣であり、検察官ではない。だから、とりあえず釈放を「地検独自の判断」とした仙石官房長官の談話それ自体は正しい(形式的には)。ただ、政治的には「企みが足りない」と非難されても仕方ないだろう。
posted at 17:35:09

ともあれ、中国政府はこれで(今まで通り?)日本を「やりやすい相手」と取るだろう。しかも今度の場合、外圧に対する司法当局の弱腰まで露呈してしまった格好になったので、なお悪い。
posted at 17:40:31

おわりに

まあ、中学レベルの三権分立理解で、検察は行政権に属するんだから内閣の政治判断を忠実に守るべきものだ、…なんてみっともない理解を晒している人がいないとも限らないので、一応まとめておいた次第。*3

*1:この点もうちょっと説明を加えておくと、がんらい司法権に属さないはずの検察の判断が司法権を侵すことがありうるかどうかという問題がある。もちろんそれはあるわけである。有罪の可能性の高い事件で、本来ならば起訴したうえで裁判所の判断を仰ぐべき状況があったとき、検察が外部の影響のもと起訴を恣意的に見送ってしまった場合、それは本来あるはずであった裁判所の判断を事前に抑制してしまう結果となる。過ぎたる起訴便宜主義は、他者(=裁判所)に属するはずの司法権の独立を間接的に冒すことがありうるのである。

*2:「検察権は裁判所とは異なり,司法権には属さず行政権に属しており,裁判官とは異なり検察官は法務大臣の一般的な指揮・監督を受ける(検察官一体の原則)が,検察官による起訴・不起訴が政治的圧力に屈するようでは,刑事裁判の公正を期すことはできない。そのため,検察官の身分も裁判官と同様に強く保障されている。」http://www.cc.matsuyama-u.ac.jp/~tamura/sihou.htm

*3:「行政っぽいですよ?」程度の理解でidコール飛ばしてしまう困ったお人もいることだしね。http://d.hatena.ne.jp/topotaupe/20100924/1285349923 因みに、もちろん検察は行政「っぽい」のではなく、行政権に属する。当たり前の話すぎて敢えて話題にする価値もないから僕はいちいち書かないのだが、こういう人がいるあたり、それともいちいち書いた方がいいのだろうか?